コラボ・コープOB

生協のOB同士で、交流と意見交換を進める場とします。  自分のこと、お互いのこと、生協のこと、世の中のこと、―-協同・平和をめざして。

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賀川豊彦「死線を越えて」を読む

「斎藤嘉璋」

 先に湯浅誠の「反貧困」(岩波新書)の読後感をこのブログに掲載した(10月30日)。その後この本は「平和と協同ジャーナリスト」賞や大仏次郎論壇賞を受賞し、ベストセラーになっているので読んだ人は多いと思う。
 この本を読んだ時、職と食・住を失って“路頭に迷う人々”につくしている湯浅誠の姿を想像し、賀川豊彦を思い出した。それで湯浅氏に会えることを期待し「平和――」授賞式(12月5日)に参加したが、情勢悪化で多忙な彼には会えなかった。
 その後、彼が日比谷の派遣村村長として頑張っている姿をみて、かって読んだ賀川豊彦の「死線を越えて」を読み直してみようと思った。東大出でありながら「反貧困」を戦う湯浅とクリスチャン賀川の共通性とか、何よりも100年前の「貧困」との差異と共通性を考えてみたかった。
 今年は賀川が神戸の貧民窟に身を投じ、貧しい人々の救貧のための活動をはじめてちょうど100年であり、それを記念しての企画のひとつとして「死線を越えて」も再版が検討されているらしい。しかし、読んでいる人は少ないと思うのでちょっと紹介。

 この小説は賀川の自伝的小説であり、彼の明治学院の学生時代の悩み多い青春からはじまり、徳島での父親との相克、小学教師や実家の回漕業で働きながらも落ちつけず、クリスチャンになる経過、そして神戸・新川の貧民窟での活動が書かれている。最後は労働運動に関わり投獄されるところで終るが、その獄中で書かれたこの小説がのち(大正9年―1983年)に雑誌「改造」に連載され、単行本となった。
 ミリオンセラーだったといわれるが、正直いって小説としては面白く上手に書かれてはいないので、現代の若い人は途中で読みたくなくなるかもしれない。しかし、ミリオンセラーになったのは当時の社会の階級的格差の拡大、そのことをめぐる社会運動と公権力や既存勢力の攻防激化といったなかでの若者たちの悩みーーが書かれていたためだと思う。
 主人公・新見の悩み多き青春物語は省略。
 そこに描かれている100年前の貧民窟(スラム)には「8千幾百人が―80何戸かの2畳敷長屋」に住んでいる。2畳に一家族が住んでいるというから、寝るのは交代なのだろう。これは現在の「1畳あまりのネットカフェに泊まる」より厳しい。
 そこに住んでいるのはまともな職がない、つけない、その日暮らしの人々であり、かっぱらい、酔っ払い、刀を振りますゴロツキ、身体を張って稼ぐ娘などである。その暮らしぶりはきびしい。しかし、当時のふつうの庶民の暮らしのレベルからみると、現在の格差ほどでないような気がする。明日を知れない暮らしぶりなのに所帯をもち、子供をつくり、一緒に悩んでいる。
 現在の若いワーキングプアーやホームレスは所帯ももてず、ただ一人路頭に迷っている。貧しい子供たちが増え、貧民窟の悪がきほどの元気もなく、孤独である。
 湯浅は現在の貧困は教育、企業、家族、公的福祉、最後は自分自身からも排除されている(「5重の排除」)という。賀川の貧民窟には家族があり、喧嘩しあう仲間がおり、自分自身からの排除=自殺の話もない。
 湯浅は現在の日本では雇用、社会保険、公的扶助(生活保護など)の3層のセフティネットがこわれて、這い上がるのが困難な「すべり台社会」になっている、それだけではなく第4のセフティネットとして刑務所の利用者も増えているという。100年まえは近代的な社会制度としてのセフティネットは未成熟であったが、何か湯浅がいういざというとき役に立つ「溜め」がある。
 賀川はその湯浅のいう「溜め」の一つとして協同組合を提唱し、労働運動にも力を注いだ。現在、労働運動の力は弱く労働者派遣業という人身売買業を許したので賀川は心外であろうし、協同組合は生協にみるように大いに発展したが、これも貧困とは戦っておらず不満ではないかと思う。
 100年たって政治や経済の在り方は進歩したと思いたい。しかし、なにが進歩したのか、人間の尊厳を台無しにする「貧困」の存在は相変わらずではないか、さらに悪化するのでは?と考えさせられた。

注=最初読んだ「死線を越えて」は戦後間もない頃の愛育社版だったと思うが、今手元にあるのは1983年発行の社会思想社「現代教養文庫」である。
賀川献身100年については「ThinkKagawa]http://d.hatena.ne.jp/kagawa100/

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