コラボ・コープOB

生協のOB同士で、交流と意見交換を進める場とします。  自分のこと、お互いのこと、生協のこと、世の中のこと、―-協同・平和をめざして。

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「福井発の挑戦」を読んで

[大友弘巳]

「もう本部の言うことは聞くな!組合員の言うことだけを聞け」
 「福井発の挑戦」という本の帯に大書されたこの文言は、つい先日まで福井県民生協理事長として活躍された藤川武夫さんが語られた言葉の一節です(そう語られたいきさつは後述)。
 奥付に記されている発行日6月23日より1週間早く、6月17日に開催された日本生協連第61回通常総会の会場で発売されました。
 その前に日本生協連発行の広報誌「CO-OP navi」の3月号でも、「福井からの挑戦~組合員の視点に立った事業ネットワーク」と題する特集が組まれ、ポイントになっている点についてはそこで紹介され、詳細は単行本を発行して伝えるとされていたましたので、総会では多くの方が注目し、この本を購入されたと思われ、私もその一人でした。
 一読した感想として、まず、この本は、「CO-OPnavi」の読者はもちろん、もっと広く多くの人々に読まれるべき価値があると感じています。

 この本の「はじめに」の中でも、「今日、組合員のライフスタイルや家族形態の変化、格差や貧困、人口減少や過疎化、さらには、少子高齢化といった様々な課題を抱えながら、大きな岐路に立たされている。(中略)21世紀のあるべき生協像を思い描くとき、福井県民生協が取り組んでいる『経営品質』の向上や『事業ネットワーク』マネジメント戦略強化のための“挑戦”はさまざまな示唆に富んでいる。
 本書は『限られた市場の中で組合員組織率を高めていくこと』と『組合員との長期的な信頼関係をしっかりと構築し、より長く生協をご利用いただくこと』を掲げる同生協の“福井発の挑戦”について報告するために編まれた。生協の事業や活動に直接的に関わっている人たちだけでなく、その他の一般の読者にも、21世紀の日本の社会が直面する多様な課題に対する一つの処方箋にもなり得る実践として、広く参考にしていただければ幸いだ。」としており、これからの生協のあり方を考えて見ようと思っている人々にとっては学ぶべき点が多いと思われるからです。

「経営品質」向上運動が、挑戦のはじまり
 「経営品質」向上運動のことを福井県民生協に紹介してくれたのは、同生協の学識経験者理事で、民間企業の経営者でもある方だったそうですが、理事会での研究・検討の段階で、以下のようにアドバイスされたとのエピソードが紹介されています。
 「『経営品質』とは、顧客を大事にする経営、生協で言うと組合員を大切にする経営ということ、口で言うのは簡単だけれども、組織、つまり職員の考え方を変えないと駄目ですよ。福井県民生協は今、業績が低下していますね。そこで『経営品質』を中途半端にやるとさらに業績が下がります。組織がバラバラになりますよ。そしてそのことにびっくりして途中で止めてしまうとさらに悪くなります。」「1ヶ月猶予をあげるから、組織一丸でやるのかやめるのか、よく考えなさい」という厳しい言葉が続いた、と藤川さんは述懐しておられます。
 結局、藤川さんは「経営品質」向上運動を福井県民生協の中心に置くことを決断されたのですが、それはつまり、それまでの福井県民生協は、組合員、利用者を本当には大切にしていなかった、それが業績悪化の原因であり、組織ぐるみ変えなければならないと真摯に反省され、抜本改革への決意をされたということだったのではないかと拝察しています。
 「経営品質」向上運動を本格的にスターとすることになったのは2002年7月とされていますが、同生協は2000年から2002年までの3年間で供給高が13~14%も落ち込んでいた最中であったとのことで、その落ち込みの大きさは、今考えてみても深刻なものであったと思われます。
 福井県民生協では、そうした状況を突破する挑戦として、03年、ハーツつるがを開店しました。その準備段階から組合員の拡大、出資金増強の取り組み、組合員からのアンケートに基づく売り場作りなど「経営品質」向上の立場で努力し自負を持って開店を迎えたのですが、開店の一時期を過ぎると来店客数は計画を大きく下回る状況だったといいます。
 「なぜか」と検証を深める中で、特に畜産の売り場では組合員からの声を本当には受け止めていなかったことが明らかになったときに、「もう本部の言うことは聞くな!組合員の言うことだけを聞け」という言葉が発せられとのことです。
 組織一丸となって「経営品質」向上運動に取り組み始めたつもりだったのに、実は組織は本質的には変わっていなかったことを痛感され、この激しい言葉を発せられることになられたのでしょう。
 これを機に、本部主導のマネジメントを現場主導のマネジメントへと大きく舵を取ることにつながり、「経営品質」向上運動の取り組みも本物になって行ったということでした。

「事業のネットワーク」のはじまりも、ハーツつるがのピンチから
 福井県民生協では、宅配で培ってきた組合員との信頼関係をベースに、店舗事業、子育て支援事業、高齢者介護事業、CO-OP共済事業など組合員のニーズの高い事業を組み合わせ、五つの事業で地域のくらしへのお役立ちを実現するとともに、それぞれの事業も強めるシナジー効果を発揮していると思われますが、それも最初からそうであったわけではなく、
かつては縦割りの業態の壁が牢固としてあったようです。
 それを打ち破った「事業のネットワーク」の発想のはじまりについても、以下のようなエピソードが伝えられています。
 「(ハーツつるがの供給高の)V字回復への突破口になったのは、一人のパート職員の声だった。 
『お客さんが少ないって言いますけど、今、来てくれている人は、共同購入(宅配)の組合員さん。ヘビーユーザーの人たちです』」
 理事長も専務も最初は信じられなかったが、聞き流さず、店舗のデータ宅配のデータの突合せを膨大な手作業で行い検証した結果、3割の組合員によって、店舗の6~7割の売上が構成されていることが明らかになり、その3割の組合員は、宅配のヘビーユーザーと重なっていた事実が検証されたとのことです。
 小売の常識、本部の常識では考えられないことが福井県民生協の組合員の利用の実態だったのですが、この学びによって、生協に対する認識、組合員に対する認識が本質的に変わったと藤川さんは述べておられます。
 以後 宅配の担当者が、宅配の組合員からハーツつるがに対する意見を聞きそれを店に伝え、組合員のニーズに沿った改善に努めていくことで、確実に来店者が増え始め、さらに、宅配の職員が宅配の組合員に来店を呼びかけも行うことが実践され、その中でハーツつるがの売上は急速に伸びていったのでした。
 すべての取り組みを組合員の視点で捉え直し、「事業は相互につながっている」という発想に立って、「経営品質」向上運動の中身が具体化され、取り組まれていくことになり、業態を超えて所属長が一堂に集まり、知恵を絞りあう「事業ネットワーク会議」が設定されたり、組合員一人ひとりの五つの事業の利用状況をリアルタイムで把握できる組合員データベース「CRM
(Customer Relationship Management)」の仕組みづくりや、利用額に応じて還元率を高くする「ステップアップ還元制度」の導入などへと発展しており、「経営品質」向上と「事業ネットワーク」が一体のものとして福井県民生協に根付いてきていることがうかがえます。
 そして近年は、「ハーツ便」という新たな事業に挑戦しており、まだ事業採算は厳しい状態のように思えますが、組合員からは喜ばれ、期待されているとのことですので、組合員からの協力により持続可能な事業へと確立して行かれることが期待されます。

なぜ、「福井発」が実現されたのか
 「経営品質」向上と「事業ネットワーク」を推進することによって、「限られた市場の中で組合員組織率を高めていくこと」と「組合員との長期的な信頼関係をしっかりと構築し、より長く生協をご利用いただくこと」を掲げて“福井発の挑戦”を進めていることについて、社会的背景と主体的要因を藤川理事長は以下のように語っておられます。
 まず社会的背景について、「福井県は、今、全国の縮図とも言える状況が、他県に先んじる形で急速に進んでいる。『人口の減少』『少子高齢化』は福井県では02年ごろから顕著になっており、県内のある市では、すでに高齢化率が35%を超えています。県全体が縮小期に入ってきたと感じるとともに、これまで地域社会をつないできた絆が、崩壊状態になりつつあると感じています。・・・
 中山間地での過疎化は深刻で、・・・「限界集落」に暮らす“買い物弱者”が急増している。・・・近い将来、福井県では高齢者と子どもが過半数を占めるようになることが予想されており、そのような地域こそが県のスタンダードになるだろうといわれている・・・。
 従来の、日本社会の価値・根幹であった規模拡大という前提の転換点にあると思います。私は生協が、組合員との関係性を無視し、規模拡大だけを追い求めていては、道を誤るのではないかと危惧していました。市場の流れがどうであれ、『自分たちは組合員との信頼関係を強めて、存続し続けていく』ということを発信するとともに、そのメッセージを受け止めていただける組合員づくりを進めていかなければ、生協の存続は難しいのではないかと思います。」と。
 主体的要因としては、福井県民生協の理念が挙げられます。藤川さんは、生協がよって立つべき理念について、3つの「独自能力」という言葉で語っておられます。
 「私が考える生協の『独自能力』の1つ目は、『メンバーシップ制』です。これは他のチェーンのお店が逆立ちしてもできないものです。これがあるから私たちはCRMシステムを構築できます。2つ目は、組合員の『出資金』も『独自能力』に挙げたいと思います。福井県民生協は、県内の上場企業も含めて、トップスリーに入るのですから、これは大きな強みです。そして3つ目に、『出資』『利用』『運営参加』によるくらしを創造するシステム。私たち生協は、こんなに素晴らしいシステムを持っているのだということに、もっと気付いてほしいと思いますね」と。
 福井県民生協が07年度の「日本経営品質賞」を受賞したすぐ後、08年1月に開催された全国政策討論集会の折に、ニュースとして参加者に知らせる資料は配布されましたが、日生協からの祝意表明もコメントもされずに終わり、私は惜しいことだと思っていました。
 それから3年余経って、今、「福井発の挑戦」にこれほどの注目が集まることになったことは、遅ればせとも感じますが、大事な時に間に合ったとも思っています。
 全国の多くの生協が2008年度から2010年度まで3年連続して供給が落ち込んでおり、その幅は福井ほどでないかもしれませんが、福井と似た状況を8年遅れで体験しつつあり、加えて東日本大震災による重大な損失と困難を迎えているこの時に。

藤川さんへの敬意と感謝
 2001年、福井県民生協の専務理事から理事長に昇格された藤川さんは、今年6月の総代会をもって退任されました。日生協総会の折、ご挨拶をいただいて初めて知ったのですが、10年間のご活躍とご貢献に心から敬意と感謝の意を申し上げた次第です。
 2004年11月下旬、さいたまコープの学識理事研修会の一員として、福井県民生協へ訪問させていただいたことは忘れられない思い出となっております。
 店舗現場の職員の努力と、宅配の職員からの支援によって、ハーツつるがの供給不審の克服が進んできた頃で、子育て支援NPOの「きらきらくらぶ」が、ハーツつるがのテナントとして高い支持を得て、ハーツつるがの来店客数増に大きく貢献していることなども、現地を見せていただき、NPOの皆様から直接お話をうかがって、感心させられたものでした。
 以来、福井県民生協のことは注目し続け、西村一郎さんのレポートなども楽しみに読ませてもらってきました。
 07年の「日本経営品質賞」受賞は、深く敬意を感じておりました。
 今回「福井発の挑戦」でこれまでの取り組みが集大成されたことは誠に貴重なことであり、藤川さんの全面的なご協力があってこそ実現されたことだと思われます。

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